【創作日記】バンコクの迷探偵 横綱健三
第一幕:鬱の底と依頼の着弾(約3000文字・10ブロック)

「ブロック九、伏線。相撲・猫だましがなぜ得意なのかを短く語る。のちのクライマックスへの仕込み。」
健三が横綱になれなかったのは、身長のせいじゃない。——あの日、バンコクの土俵で「勝った」と思った瞬間、彼は回しごと剥ぎ取られ、観客のどよめきの中で丸裸のまま立ち尽くした。
若い頃の夢は相撲界に入り、横綱になることだった。だが背が足りず、その道は閉ざされた。それでも未練は消えず、バンコクに渡ってからは、せめて名だけでもとフリーペーパーの名前を「横綱新聞」にしようと考えた。
バンコクでも相撲大会で何度か優勝している。得意技は猫だまし。決勝の一番では「猫だましからの内無双」と呼ばれる一撃を決め、会場を沸かせた。
ところが、その栄光が、そのままトラウマに変わった。相撲決定戦で、猫だましからの内無双が決まり、健三は勝利を確信した。だが相手はまわしを掴んだまま踏ん張っていた。次の瞬間、健三は勢い余って回しごと脱げ、勝者のはずの土俵で、敗者のように晒し者になった。会場はどよめき、健三は自分でも信じられず、裸のまま数秒、動けなかった。
それ以来、健三はほとんど毎日、うつの底にいる。あの日の屈辱が、どうしても心から離れないのだった。
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