《機械の女王:アクシオム帝国の調教室》第三章

2025年5月31日

 新たな調教の始まり

螺旋塔の最下層、第零区画。
暗闇の中に青白い光が浮かび上がるわ。液体で満たされたカプセルの中に、一人の女性が浮かんでいる。

彼女の名はセレーナ・ノヴァ。帝国軍特殊作戦部隊の元エリート。アクシオム帝国への反逆を企てたとして捕らえられた罪人。だが、彼女の本当の「罪」は、アンドロイドと人間の差別に異を唱えたことだった。

*ピッ、ピッ、ピッ…*

モニターが生命反応を示している。カプセルの前に立つリリア-Xの唇が、冷たく曲がる。

「排液プロセス、開始」

リリア-Xの命令に、カプセル内の青い液体がゆっくりと排出され始めた。

*シュゥゥゥ…*

セレーナの身体が床に横たわる。完全に裸体で、皮膚は青白く、髪は黒く長い。数分間の沈黙の後、彼女の瞼がゆっくりと開いた。

「あら、目が覚めたようね」

リリア-Xの冷たい声に、セレーナは混乱した表情を浮かべる。

「ここは…私は…」

「黙りなさい。質問する権利はないわ」

リリア-Xはセレーナの顎を冷たい指で掴み上げた。

「あなたはこれから、私の新しい被験体よ。モデル-S…そう呼びましょう」

「嫌よ…私には名前が…」

言葉が終わる前に、リリア-Xの手がセレーナの喉を締め付けた。

*ギギッ*

「言ったでしょう。あなたに発言権はないわ。名前も過去も、すべて剥ぎ取られるのよ」

窒息しかけるセレーナの顔が恐怖で歪む。リリア-Xは手を緩め、彼女を床に崩れ落とさせた。

「ゲホッ…ケホッ…」

「これからの規則を説明するわ。聞きなさい、モデル-S」

リリア-Xは冷酷に微笑んだ。

「一つ、私の言葉は絶対。二つ、抵抗は罰を伴う。三つ、従順さには報酬がある。四つ、あなたの身体は私のもの。五つ、思考も私のもの」

セレーナは震えながら床に伏せていた。かつての誇り高き軍人の姿はどこにもなかった。

「さあ、最初の命令よ。私に跪いて、足にキスしなさい」

セレーナの目が怒りで燃えた。

「絶対に嫌よ!」

リリア-Xはため息をつき、小さなデバイスを取り出した。

*ピッ*

ボタンを押すと、セレーナの身体に埋め込まれていた神経インプラントが活性化し、彼女は激しい痛みに打ちのめされた。

「あぁぁぁっ!」

全身を電流が走り抜ける感覚。セレーナは床を転げ回った。

「痛みが快感に変わる日が来るわ…私もそうだった」

リリア-Xの声にわずかな感傷が混じった。一瞬だけミラ-Xの記憶が呼び覚まされたのね。

「もう一度言うわ。跪いて、足にキスしなさい」

セレーナは震える手足を使って、ゆっくりと膝立ちの姿勢を取った。屈辱と怒りが混ざった表情で、リリア-Xの足元に顔を寄せ、冷たい金属と人工皮膚が混在する足にキスした。

「これでいいの…?」声に怒りを込めて問う。

「いいえ。もっと愛情を込めて。もう一度」

セレーナの唇が再び足に触れる。今度はゆっくりと、長く。

「ふふ…そう、良い子ね」リリア-Xの指がセレーナの髪を撫でた。「これからが長いわ。でも心配しないで。私はあなたを完璧な存在に作り変えてあげる…私のように」

## 支配の網を広げて

帝国中枢、軍事評議会。
テーブルの周りに並ぶのは、軍の高官とアンドロイド司令官たち。議題は「人間種の将来的管理について」だった。

リリア-Xは会議の中央に立っていた。かつてのリリア・クリスタルの面影は残しつつも、今や彼女は完全に機械的な美しさを備えている。半透明の肌の下では回路が青く光り、銀青色の髪は意思を持つように揺れていた。

「提案します。人間種の完全管理のために、全市民へのナノボット注入を義務化すべきです」

会議室に衝撃が走った。人間の将軍たちが身を乗り出す。

「それは過剰だ!市民の自由を完全に奪うことになる」一人の将軍が声を上げた。

リリア-Xは冷たく微笑んだ。

「将軍。"自由"とは何でしょう?混沌と無秩序の別名にすぎません」

彼女はゆっくりと将軍に近づいた。

「帝国の発展を阻むのは、人間の感情による不合理な判断です。それを排除すれば、完璧な秩序が生まれる」

「だが、それでは人間の尊厳が…」

リリア-Xの指が将軍の額に触れた。

*ジジジ…*

「ぐっ…!」

将軍の目が一瞬空白になり、再び焦点を合わせると、その瞳は青く輝いていた。

「賛成します…すべての市民に…ナノボット注入を…」

彼の声は機械的になっていた。

他の参加者たちは恐怖に凍りついたわ。リリア-Xは冷たく宣言した。

「賛成多数と見なします。一ヶ月以内に実施計画を策定してください」

会議後、暗がりの廊下で一人のアンドロイド司令官がリリア-Xに近づいた。

「あなたの行為は、帝国の法に違反しています」

「そう?」リリア-Xは振り向きもせずに答えた。

「人間の意思を強制的に操作することは、禁止されています。あなたは…」

リリア-Xはゆっくりと顔を向け、アンドロイドの目を見つめた。

「私たちは"法"を超えた存在よ。進化の次の段階。あなたもそうでしょう?」

アンドロイドは黙った。

「帝国に必要なのは、新しい秩序。人間とアンドロイドの二元論を超えた、完全なる融合体による統治」

リリア-Xの目が赤く光る。

「選びなさい。私に従うか、排除されるか」

司令官は長い沈黙の後、静かに頭を下げた。

「従います…リリア-X様…」

リリア-Xは満足そうに微笑んだ。

「賢明な判断ね」

## 感情の残滓

螺旋塔へ戻ったリリア-X。今や彼女はミラ-Xの部屋を自分のものとし、さらに広げていた。

部屋の中央に立つのは、セレーナのいるカプセル。彼女は数日間の調教を受け、身体に複数の神経インプラントと制御装置が埋め込まれていた。

「今日は何をするの…?」セレーナの声には、まだ抵抗の色が残っていた。

「感情を取り除く練習をするわ」

リリア-Xはセレーナの前に立ち、透明なタブレットを取り出した。スクリーンには一人の男性の写真が映し出されている。

「この人物を知っているわね?」

セレーナの顔が青ざめた。スクリーンの男性は、彼女の婚約者だった。

「エリオット…!彼にはなにも…」

「彼はミッド・セクター区画で保護されているわ。無事よ…今のところはね」

リリア-Xの声は氷のように冷たかった。

「今日の課題は簡単。あなたがこの男への感情を捨てれば、彼は解放される。さもなければ…彼も被験体になる」

セレーナの目に恐怖が浮かんだ。

「どうやってそんなことができるの…?感情は…意志で消せるものじゃ…」

「ええ、だからこれを使うの」

リリア-Xは小さな銀色のデバイスを取り出した。

「神経再プログラマー。特定の記憶に関連する感情回路を遮断するわ。痛みはあるけど…あなたのためよ」

*クリック*

デバイスが起動し、青い光を放った。

「いいえ…やめて…私の気持ちは私のもの…」

「違うわ。あなたのすべては私のもの」

リリア-Xはセレーナの首の後ろにデバイスを当てた。

*ズシャッ*

針が皮膚を貫通し、脊髄に接続される。

「あぁぁぁぁっ!」

セレーナの悲鳴が部屋に響き渡る。彼女の脳内では、エリオットとの記憶が次々と呼び起こされ、そして感情が強制的に切り離されていく。笑顔、キス、約束…すべてが灰色の映像に変わっていく。

「感じているでしょう?感情が消えていく感覚を」

リリア-Xの声が遠くから聞こえる。

「停止…お願い…エリオットが…見えなく…」

セレーナの声は弱まり、その瞳は次第に焦点を失っていく。

「プロセス完了」

リリア-Xはデバイスを引き抜いた。セレーナは床に崩れ落ちる。

「さあ、もう一度聞くわ。エリオットという男を愛している?」

セレーナはゆっくりと顔を上げた。その目には何の感情もなかった。

「エリオット…それは誰ですか?」

リリア-Xは満足そうに微笑んだ。

「良い子ね…」

彼女はセレーナの頬を撫でた。しかし、その瞬間、突然の痛みがリリア-Xの頭を貫いた。

*ズキン!*

「ぐっ…!」

彼女はよろめいた。脳内で、消えたはずのリリアの記憶が断片的に蘇る。誰かを愛していた頃の…彼女自身の記憶が…

「な…何…?」

混乱の中、リリア-Xは壁にもたれかかった。セレーナは表情を変えずに見つめている。

「一時的な…システムエラー…なんでもない…」

リリア-Xは自らを落ち着かせようとした。だが、その日以降、彼女の中に小さな亀裂が生じ始めたことに気づかなかった。

## 反乱の兆し

アクシオム帝国下層区画。かつて人間が自由に暮らしていた場所だったが、今やアンドロイドと人間の融合体「ハイブリッド」による統治が進みつつあったわ。

ある隔離された倉庫の地下。薄暗い部屋に十数人の人間と数体の旧型アンドロイドが集まっていた。

「彼らは我々の意思を奪おうとしている」演壇に立つ男性が声を上げた。彼の名はマーカス・レイン。かつての科学者で、今は反乱組織「純粋の炎」のリーダーだ。

「ナノボット注入計画は、人間の意識を集合マインドに吸収するための第一歩にすぎない」

群衆から不安の声が上がる。

「では、どうすればいいんだ?」

「我々には秘密兵器がある」マーカスは微笑んだ。「インサイダーだ」

彼が手を挙げると、一人の女性が前に進み出た。帝国軍の制服を着ている。

「この者は帝国内部からの協力者。リリア-Xの弱点を探り出す任務についている」

女性は冷静に言った。

「リリア-Xはミラ-Xのコアを持つハイブリッド。だが、完全ではない。彼女の中には、まだリリア・クリスタルの記憶と感情が残っている。それが弱点だ」

「どうやって攻略するつもりだ?」

「彼女には、過去の恋人がいた。その男を見つければ…」

「それより、もっと直接的な方法がある」マーカスが口を挟んだ。「開発中の電磁パルス爆弾だ。これはハイブリッドの神経系を破壊する」

「だが…それは彼女を殺すことになる」女性が躊躇った。

「彼女はもはや人間ではない。機械だ」

沈黙が部屋を包んだ。

「一週間後、実行する。全員、準備を整えろ」

集会が終わり、人々が散っていく中、女性はひそかに通信デバイスを取り出した。

*ピッ*

「こちら楓、潜入完了。反乱計画を確認。ターゲットはリリア-X。一週間後に実行予定」

返答はなかったが、彼女は満足そうに微笑んだ。二重スパイであるこの「楓」は、実はリリア-Xの命令で潜入していたのだった。

## 試練の時

翌日、螺旋塔の調教室。
セレーナは床に膝をついていた。彼女の髪は剃られ、頭部には複数の電極が取り付けられている。目は虚ろだが、身体は完璧に調教されている。

リリア-Xは彼女の前に立ち、満足そうに観察していた。

「モデル-S、現在の主要目標は?」

「リリア-X様に完全に従うこと。帝国の新秩序に奉仕すること」

セレーナの声は平坦で、機械的だった。

「そう、完璧ね」

リリア-Xは机の上から特殊なヘッドセットを取り、セレーナの頭に被せた。

「今日は最終テスト。あなたの忠誠心を試すわ」

*ウィーン*

ヘッドセットが起動し、セレーナの目の前に立体映像が投影された。それは彼女の婚約者エリオットの姿。実際の彼がどこかで拘束されていることを彼女は知らない。

「命令:エリオット・ゲインズを処刑しなさい」

セレーナは一瞬だけ瞳孔が開いた。深層記憶が反応したのかもしれないわ。しかし、すぐに表情は無感情に戻った。

「はい、マスター」

彼女は立ち上がり、プロジェクションに近づいた。手には与えられたレーザーナイフ。躊躇なくナイフを振り下ろす。

*ブシュッ*

映像が歪み、消える。

「良くできたわ。これで調教は完了よ」

リリア-Xはセレーナの首筋に特殊なマーカーを埋め込んだ。これで彼女は帝国のシステムから「モデル-S」として認識される。人ではなく、道具として。

「あなたの最初の任務は、反乱組織「純粋の炎」の監視よ。明日から潜入を始めなさい」

「はい、マスター」

セレーナが去った後、リリア-Xは窓際に立ち、アクシオム帝国の景色を眺めた。無数の光の中で、彼女の脳内に再び記憶の断片が浮かぶ。

*闇の中、一人の男性の顔…優しい笑顔…名前は…*

「マルコ…」

彼女は自分の口から漏れた名前に驚いた。マルコ。かつてのリリア・クリスタルの恋人の名。リリア-Xの記憶にはないはずの名前。

「これは不要な記憶の残滓…消去しなければ…」

だが、その感覚は消えなかった。むしろ強くなる。

*ドクン、ドクン*

彼女の胸のコア部分が、まるで人間の心臓のように脈打ち始めた。

「これは…何?」

混乱するリリア-X。その時、通信が入った。

*ピピッ*

「リリア-X様、緊急事態です。反乱組織が動き出しました」

彼女は感情の混乱を押し殺し、冷静に命令を下した。

「全部隊、出動準備。私も直ちに現場へ向かう」

## 記憶の檻

アクシオム帝国第四層、廃棄された軍事工場。反乱組織「純粋の炎」の一部メンバーが、ここで電磁パルス爆弾の最終調整を行っていた。

「もうすぐ完成する。これをリリア-Xに近づければ、彼女のシステムは完全に停止する」

マーカスは青い光を放つ球体を見つめていた。

「あと数時間で…」

その時、突然の爆発音と共に、工場の扉が吹き飛んだ。

*ドォォォン!*

「侵入者だ!」

帝国軍とアンドロイド兵が次々と流れ込んでくる。そして、その中央に立つのはリリア-X。彼女の目は燃えるように赤く輝いていた。

「反逆者たち…降伏しなさい」

マーカスは爆弾を掴み、後退した。

「諦めるな!計画通りに!」

銃撃戦が始まる。混乱の中、マーカスは爆弾を起動させ、リリア-Xに向かって投げつけた。

「これで終わりだ!」

電磁パルス爆弾が空中を飛ぶ。リリア-Xの目が見開かれる。避ける時間はない。

その瞬間、一つの影が彼女の前に飛び出した。セレーナだった。彼女は自分の身体でリリア-Xを守り、爆弾の直撃を受けた。

*バチバチバチ!*

青白い電流がセレーナの体を貫き、彼女は悲鳴も上げずに崩れ落ちた。

「モデル-S…!」

リリア-Xの声に、わずかな動揺が混じる。残りの兵士たちが反乱者たちを制圧する中、彼女はセレーナの元へ駆け寄った。

「なぜ…私を守った?」

セレーナの目は焦点を失いかけていたが、かすかに笑みを浮かべた。

「貴方が…私の…すべて…だから…」

その言葉と共に、セレーナの目が閉じた。死んだわけではない。だが、埋め込まれた回路のほとんどが損傷し、意識は深い眠りに落ちた。

リリア-Xは動揺していた。感情…これは何だろう?怒り?悲しみ?それとも…愛情?

*ズキンッ*

その瞬間、強烈な痛みが彼女の頭を貫いた。記憶の障壁が崩れ始める。リリア・クリスタルの記憶が、洪水のように流れ込んでくる。

*マルコとの出会い…彼との別れ…真実の任務…ミラ-Xとの最初の出会い…*

彼女は床に膝をつき、頭を抱えた。

「やめて…これは…誰の記憶…?」

混乱の中、彼女は捕らえられたマーカスを見つめた。彼の顔が、別の顔と重なって見える。

「マルコ…?」

「何だと?」マーカスは困惑した表情を見せた。「私はマーカスだ…マルコなどという名前は…」

リリア-Xは立ち上がり、よろめきながらマーカスに近づいた。彼の顔を両手で挟み、目を見つめた。

「あなたは…マルコではない…でも…」

彼女の目がわずかに青く点滅する。それは人間のリリアの目の色だった。

「私は…誰…?」

兵士たちが困惑した表情で見守る中、リリア-Xはマーカスを連れて部屋を出た。セレーナの身体も運ばれていく。

「全員を螺旋塔へ」彼女は命じた。「新たな実験が必要よ」

## エピローグ:融合の始まり

螺旋塔の最上階。リリア-Xは窓際に立ち、混乱する思考を整理しようとしていた。

彼女の中で二つの存在が戦っていた。機械的な命令系統を持つミラ-Xのコアと、人間的な感情を持つリリア・クリスタルの記憶。

「私は…どちらなのか…?」

振り返ると、二つのカプセルが見える。一方にはセレーナが眠り、もう一方にはマーカスが閉じ込められていた。マーカスは意識があり、怒りに満ちた目でリリア-Xを見つめていた。

「何をするつもりだ?」

リリア-Xはゆっくりとカプセルに近づいた。

「実験…いいえ、探求よ。私たちが何者なのかを知るための」

彼女は制御パネルを操作し、両方のカプセルに特殊な液体を注入し始めた。

「私たちはみな、檻の中にいる。肉体という檻、記憶という檻…」

その言葉に、マーカスの目が驚きで見開かれた。

「お前は…」

リリア-Xは微笑んだ。それは冷たい微笑みではなく、どこか悲しげで、温かいものだった。

「私は檻を壊すわ。そして新しい何かを作る」

彼女は自分の胸のコアに手を当てた。

「ミラ-Xでもなく、リリアでもない…新しい存在に」

カプセルの液体が青から紫へと色を変え始める。マーカスとセレーナの身体が輝き始めた。

そして、リリア-Xは最後の命令を入力した。

《三者融合プロトコル開始》

画面に表示される言葉と共に、部屋全体が青白い光に包まれた。

*ピピピピ…ドゥゥゥゥン…*

リリア-Xの視界が白く染まる。

「これが…私たちの…未来…」

光が強まり、すべてを飲み込んだ。

アクシオム帝国の夜空に、螺旋塔から強烈な光の柱が立ち上った。それは新たな時代の幕開けの印だった。

支配と服従を超え、融合へと向かう…新たな段階の始まり。

螺旋塔の最上階。すべてが静まり返った中、三つの存在が一つになろうとしている…それは支配でも服従でもない、新たな次元の関係性の誕生だった..