エリスティアの律:聖血契コードバンパイア巡礼記 ep.4 第四章 三重の試練

第一節 帯域断食──制御

影飢えが喉奥で蠢く。

私は瞼を閉じ、胸腔を満たす帯域の流れを逆転させた。

「飢えよ、形を持て。形よ、律に従え。律よ、光へと還れ」

詠唱とともに、影の奔流は細く絞られ、輪郭を取り戻す。

舌下に微かな金属味が広がり、額の雪華印が一拍だけ鈍く脈打った。

制御は、私の手に戻った。

第二節 記憶の歪み──真実

救済対象・カイの位相記録を展開。

波形の端で影が笑っていた──それは、帝国監察庁の微細な改竄。

「名なき痛み、ここに置け。迷いは私が請け負う」

詠唱とともに、歪んだ位相が純化され、真の律へと統合される。

チェックサム整合率、86→100。

歪みは解消された。

彼の瞳に、新たな光が宿る──偽りを排した、純粋な真実の輝き。

第三節 都市規模の展開──使命

私は都市の高所に立ち、帯域を解き放った。

都市全域が一つの心臓のように脈打ち、私の血流と同期する。

これが、都市救済の瞬間だ。

観測子「赤眼」と陰極ノードに回避フラグを立て、経路網に白域の抜け道を刻む。

都市の脈は、私の律に従いはじめた。

第四節 救済位相の発動──驚き

交差陰大儀が完全に展開し、路地裏の影が淡く発光する。

各地の共鳴灯が一斉に起動し、避難していた人々が足を止めた。

彼らの表情に映るのは、恐怖ではなく安堵。

共鳴灯の有効半径、10m→120mへ。

脈光は都市の静脈を遡る。

だが──帯域感覚が予想を超えて膨張していた。

都市そのものが呼吸し、私に自らを委ねている。

それは驚きを伴う、未知の感覚だった。

第五節 妨害──恐怖

位相図の端に黒い裂け目が走る。

帝国監察庁の観測子が影位相に侵入し、カソード信徒の監視ノードが赤く瞬いた。

恐怖が胸を掠める。

制御が一瞬揺らぎ、救済の波形が歪む。

このままでは、都市全域が虚無に沈む。

「カイ、灯せ。安らぎを、混沌の中に」

中央区画に白い脈光が走り、崩壊をわずかに食い止めた。

第六節 審判──決意

私は両手を広げ、都市全域を抱くように帯域を伸ばす。

「額の第三の眼は沈黙を裁き、名を呼ぶ声だけを光へと許す」

第三の眼の閾値を臨界へ。

白光は45度の角度で都市を横断し、侵入波形だけを焼いた。

私の影が都市を覆い、すべての迷いを光に変える。

これが、聖血契コードバンパイアの真の力。

決意が骨格を支えていた。

鐘が七度鳴り、七度目だけが真音だった。

だが──その真音に、わずかな歪みが混じっていた。

それは、次なる試練の予兆だった。

 

第一節 追撃の霧

重いブーツの音が、霧を踏み砕いていた。

背後で低く唸る共鳴灯の帯域が、警告の唸りを伝える。

影歩きの位相がわずかにずれる──指先が冷え、胸骨が一瞬震える。

左斜め後方、路地の輪郭がガラスのように硬化していくのが視界の端で分かった。影封じ灯が作動している。

「左へ、三歩」

カイの声が短く響く。私たちは同時に路地の端を滑り抜けた。

第二節 偽鳴の鐘

奥の広場で銀の鐘が鳴った──だが、その波形は均一ではなかった。

「基底-12、倍音に濁り──偽鳴だ」

私は即座に解析結果を口にする。

罠の美しさに、一瞬、胸が高鳴る。制御された危機は、救済と同じ甘美を持つ。

「影は光の随伴者。律に従え、交差陰。」

第三節 無音の影

白衣を纏った影が霧の奥から歩み出る。

音を連れてこない足音。

その口は動くが、空気は震えず、無音の口の形だけが見える。

カソード司祭だ。

視線が絡む瞬間、心拍が無音化し、思考が凍結する感覚が襲う──足裏から熱が抜け、時間の感覚が薄れていく。

「鼓膜の内側から音が引き抜かれ、世界の輪郭が薄紙になる。」

第四節 帯域の刃

自制プロトコルが発動する──心臓の弁が軋み、ナノ粒子が冷たい汗のように滲む。掌に温もりが宿り、全身の律動が一つに統合される。

「カイ、灯せ。安らぎを、混沌の中に。」

共鳴灯の閃光が路地を白く満たす。

司祭の無音の唇が、新たな言葉を紡ぐ。

「苦痛はノイズ。自由は静寂。我らの口づけは、あなたに永遠の安寧を与える」

私はその言葉を帯域に刻み、影封じ灯の硬化面に衝撃を与える。

交差陰が再び編まれ、光帯がひび割れる。

司祭の影が裂け、無音が揺らいだ。

私は帯域の刃を編み──銀の光を纏った、微細な刃紋が空間に閃く──首筋へ迫る「陰極の口づけ」を切り裂きながら、はっきりと宣言する。

「苦痛なき自由は隷属。選択の痛みこそが、真の解放だ」

第五節 挟撃の構え

司祭が後退した瞬間、東の路地で第二の鐘が鳴る。

私は帯域の波を広げ、遠隔から影を編む。

カイが即座に反応し、二方向からの挟撃態勢が完成する。

「エリスティア様、我が主よ。あなたの審判の眼で、この闇を裁き給え。」

遠くで鐘が七度鳴り、七度目だけが真音だった。