戦場の黒猫ミッドナイト 真夜中ミッドナイトと魂の駅
真夜中ミッドナイトと魂の駅
真夜中ミッドナイトは、昨日と同じ方向へ向かって走り続けていた。
早くこの地獄のような場所から抜け出したい。
焼け焦げた大地。崩れた建物。静まり返った世界。
でも、いつの間にかミッドナイトの目は暗闇に慣れていた。
闇の中でも、遠くのものを見ることができる。
それは、この壊れた世界で生き残るために手に入れた不思議な力だった。
ミッドナイトはふと足を止めた。
そこには一本の線路が伸びていた。
「この線路を進めば……きっと町に着くかもしれない」
もしかしたら、まだ誰かが生きている場所があるかもしれない。
そう信じて、ミッドナイトは線路に沿って走り始めた。
しばらく進むと、爆弾によって破壊された駅が現れた。
屋根は崩れ、壁はなくなり、駅とは呼べないほど壊れていた。
それなのに、不思議なことに一つだけベンチが残っていた。
そこには老人と白い犬が座っていた。
二人とも動かない。
まるで世界の時間から取り残されたようだった。
ミッドナイトが通り過ぎようとした、その瞬間。
白い犬が声をかけた。
「お前、どこへ行くんだい?」
ミッドナイトは驚いて振り返った。
「この線路を進めば、別の駅に着くと思うんだ。そこには、まだ生きている人たちがいるかもしれない」
白い犬は静かに笑った。
「そうか。でも……たぶん、もう戦争で多くの人は死んでいると思うよ」
そして犬は、隣にいる老人を見た。
「それに、お前の隣にいる人間――そのおじいさんは、もう生きていない」
「何を言ってるんだよ。そこにいるじゃないか」
ミッドナイトは老人を見た。
確かにそこにいる。
でも犬は首を振った。
「僕は犬だから分かるんだよ」
「おじいさんの体はもう動かない。でも魂はまだここにいる」
「だから一緒に連れて行けばいい」
「これが賢い夢っていうものさ。にゃんにゃんにゃん」
「君の名前は?」
ミッドナイトが聞くと、白い犬は答えた。
「僕はジェット。おじいさんがつけてくれた名前だよ」
ジェットは少し笑った。
「君も不思議な目をしているね」
「僕は右目が見えないんだ。爆弾のせいでね」
ミッドナイトは言った。
「じゃあ、僕たちは二人で一つの目なんだね」
二匹は顔を見合わせ、静かに笑った。
ジェットは言った。
「おじいさんは魂だけだから、背中に乗せても重くないよ」
「そうなんだ」
ミッドナイトは少し安心した。
「でも僕は誰よりも速く走れるんだ」
「暗闇でも遠くの音が聞こえる」
こうして、ミッドナイトとジェット。
そして老人の魂。
三人の不思議な旅が始まった。
線路を走りながら、僕たちはいろいろな話をした。
「ねえ、君はこの戦争を誰が始めたか知ってる?」
ジェットが聞いた。
ミッドナイトは首を振った。
「知らない。でも……絶対に許されることじゃないよね」
「きっと、始めた人は安全な場所にいて、この戦場を遠くから眺めているんだ」
「まるでゲームでもしているみたいに」
ジェットは悲しそうに言った。
「そうだね」
「戦争で失った人たちの悲しみや涙なんて、きっと見えていないんだ」
すると老人の魂が静かに話した。
「それは今に始まったことではないよ」
「人間は昔から、自分や仲間を守るために敵を作ってきた」
「そして争いを繰り返してきた」
ミッドナイトは言った。
「それなら、猫や犬のほうがずっと優しい生き物だよね」
ジェットは笑った。
「まったくだ」
老人は空を見上げた。
「でも、人間には人間にしかできないこともある」
「誰かを思いやること。失ったものを覚えていること。そして未来を変えようとすること」
「ただ、それを忘れてしまうことがあるんだ」
しばらく走ると、太陽が昇り始めた。
僕たちは安全な場所を探して休むことにした。
線路の近くには、昔コンビニだった建物が残っていた。
壁は壊れ、棚も倒れていた。
でも雨風を防ぐには十分だった。
僕は小さくつぶやいた。
「美味しい食べ物と、水と、安心して眠れる場所があれば……それだけで幸せなのに」
ジェットが言った。
「本当だね」
「少ししかなくても、みんなで分ければいいのに」
「でも僕たちだって、お腹が空けば争うこともある」
「だから人間だけを責めることはできないよ」
「でも……爆弾を作って世界を壊すことは、僕たちにはできない」
老人は静かに言った。
「人間は大きな力を手に入れた」
「でも、その力をどう使うかをまだ学んでいる途中なのかもしれない」
夜が近づいた。
壊れたコンビニの奥で、僕たちは寄り添うように眠った。
明日、また線路の先へ向かうために。
まだ誰かが生きている場所へ。
未来へ続く場所へ。
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