戦場の黒猫ミッドナイト 灰の大地と風車の騎士 ― セルバンテスとの出会い

夜が再び訪れた。

僕とジェットおじさんは、線路に沿って走り始めた。次の駅があることを信じていた。そして、もし駅の近くにコンビニが残っていれば、水や食料を手に入れられるかもしれない。そんな小さな希望を抱きながら、暗闇の中を進み続けた。

やがて周囲の景色は、かつては穏やかだったであろう農村の風景へと変わっていった。

しかし、そこに畑はなかった。

広がっていたのは、すべてを焼き尽くされた大地だった。

灰色の空の下、大きな風車の残骸が横たわり、駅の案内板だけが静かに立っていた。まるで、この場所にまだ誰かが帰ってくるのを待っているようだった。

僕たちは小さな駅へたどり着いた。

駅の近くには、かろうじて焼け残った一本の木があった。そのそばに、見たことのない動物がいた。

ロープにつながれて動けなくなっている。

そして、その近くには人間の姿もあった。

すると突然、僕の頭の中に声が響いた。

「ねえ、そこの猫さんとワンちゃん……お願いだから、このロープを切ってくれないかな。お腹も空いたし、水も飲めなくて……もう限界なんだ」

僕は驚いて尋ねた。

「君はいったい、何という動物なの?」

動物は弱々しく答えた。

「僕はロバなんだ。飼い主のおじいさんは、爆弾で亡くなった。駅の近くのコンビニへ買い物に行く途中だったんだ……」

僕は必死にロープを外そうとした。

でも、猫の僕の力ではどうすることもできなかった。

その時、ジェットが前に出た。

鋭い歯でロープを噛み続け、ついに切り離した。

「ありがとう」

ロバは嬉しそうに言った。

「それじゃあ、みんなでコンビニへ行こう。食べ物と水を探そう。僕ももう何日も何も口にしていないんだ」

その瞬間、どこからともなく人影が現れた。

僕には見えた。

それは、亡くなったおじいさんだった。

「勝手にワシのロバを連れて行ってはいかん」

おじいさんはそう言った。

でも、怒っているようには見えなかった。

「コンビニへ行くなら、ワシも一緒に行こう」

そう言うと、おじいさんはロバの背中にまたがった。


コンビニへ向かう途中、僕たちはいろいろな話をした。

「そういえば、ジェットの飼い主のおじさんの名前って何ていうの?」

僕が聞くと、ジェットは答えた。

「ジョンおじさんだよ」

すると、おじさんは笑った。

「私はジョン。そして私の相棒はジェット。2人合わせて、伝説のロックの女王、ジョン・ジェットなんだよ」

僕はその名前を聞いたことがなかった。

「ジョン・ジェットって、そんなに有名なの?」

「歌っている時に、ギャオとかワオとか叫ぶんだよ」

僕は思わず笑った。

「人間なのに、ずいぶん野性的なんだね」

そんな会話をしながら、僕はロバに乗ったおじいさんへ尋ねた。

「あなたの名前は何というんですか?」

おじいさんは答えた。

「私の名前はジョバンニ。そして、このロバの名前はセルバンテスだ」

「セルバンテス……」

その名前を聞いた瞬間、どこか懐かしい記憶がよみがえった。

「その名前、聞いたことがあります。ジョンおじさんが本を読みながら、僕に話してくれた気がします」

ジョンおじさんは静かに言った。

「セルバンテスとは、『ドン・キホーテ』を書いた人物の名前じゃ」

僕は風車の残骸を見つめた。

「ドン・キホーテ……」

ジョバンニおじいさんは言った。

「騎士のドン・キホーテのように、あの爆弾を落とした巨大な存在を探し出し、立ち向かうのじゃ。たとえ誰にも理解されなくてもな」

「旅には目的が必要だ」

その言葉は、暗闇の中で小さな光のように感じた。

やがて僕たちは、壊れかけたコンビニへたどり着いた。

残された水と食料を見つけ、僕たち3匹と2人は久しぶりに安心して眠ることができた。

そして朝が来た。


僕は夢を見た。

騎士の姿をしたおじいさんが、痩せたロバにまたがり、巨大な風車へ向かって突進していく夢だった。

おじいさんは叫んでいた。

「みんなを守るためなら、この命をかけても構わない! あれが何であろうと、立ち向かう。それがドン・キホーテというものなのだ!」

勝てるかどうかなんて分からない。

相手が本当に巨人なのか、それともただの風車なのか。

そんなことは問題ではなかった。

戦わなければ、何も変わらない。

恐ろしいものから目をそらさず、たとえ無謀だと言われても前へ進む。

それが騎士の魂なのだ。

ロバもまた恐れることなく、おじいさんを乗せたまま巨大な風車へ向かって走った。

風車は巨大な音を響かせながら、ゆっくりと回転していた。

周囲の人々が叫ぶ。

「おじいさん! あれは巨人ではありません! 戦っても意味がありません!」

その声を聞いた瞬間、僕は目を覚ました。

そうだ。

この世界をこんな姿にした存在がいるなら、誰かが立ち向かわなければならない。

普通の人には見えないかもしれない。

でも僕には見えた。

戦争で失われた命たちが、静かに僕たちを見つめ、応援している姿が。


そして再び、夜が訪れた。

僕たちは線路に沿って、さらに前へ進む。

暗闇の中には、怪物のようになった人間たちがさまよっていた。

悲しみの声。

怒りの声。

獣のような叫び。

そして、消えることのない悲鳴。

ここはまるで、地獄のような世界だった。

それでも、僕たちは進む。

いつか普通の街へたどり着くために。

そして、巨大な風車の向こうにいる何かと出会うために。

3匹と2人の思いは、同じだった。

恐怖に支配されず、闇の中を走る。

ドン・キホーテのように。

自分たちの信じるものを守るために。