【創作ノート】ノベルアップ+ ミステリー短編コンテスト「探偵」

【創作】ノベルアップ+
ミステリー短編コンテスト「探偵」

バンコク迷鬱探偵 横綱健三

キャラクター設計の音声入力台本

声に出す前に、まず人物を「着る」台本よ。

【主人公:仮名・山田健三、通称ケンゾー】

「主人公の外見から語る。身長百六十センチ以下、体重百キロ前後、頭頂部は完全にツルツル。バンコクの湿気で常に汗だく。よれよれのポロシャツ、色は不明になった何かの色。歩くとサンダルがペタペタ鳴る。」

「内面を語る。双極性障害を持ち、躁のときは神がかった閃きで突っ走り、うつのときは安アパートで三日間カーテンを閉めて寝ている。フリーペーパーの締切はいつもギリギリ。読者お悩み相談コーナー経由で、主に浮気調査の依頼を裏で処理している。」普段は鬱状態が続き。とんかつを食べると、数時間躁状態になることがある。以前相撲大会でまわしが取れてしまい、みんなの前で丸裸になってしまったトラウマがある。
バンコク横綱新聞の編集長。

「特技を語る。若い頃日本で相撲の稽古をしていた。得意技は猫だまし——両手を顔の前でパンと
たいて相手の目を一瞬くらませる技。探偵としてこれが本当に使えるのかは分からないが、本人だけは本気で信じている。」石頭なので、頭突きも武器として使う場合がある。伝説のプロレスラー、原爆頭突きの継承者だと噂されている——

「在住歴を語る。バンコク在住二十五年。タイ語は日常会話レベル、ただし発音が独特すぎてタイ人に笑われる。裏路地、屋台の場所、警察との微妙な距離感——全部知っている。」

【依頼人:仮名・中村由美子】

「日本在住、四十代後半。夫がバンコクでラーメン店を経営して五年。月に一、二度LINEビデオ通話で顔を合わせていたが、先月から連絡が途絶えた。警察には届けたが処理待ち。藁にもすがる思いでフリーペーパーの相談コーナーに投稿した。」

「嘘の仕込みを語る。由美子は『夫婦仲は良好だった』と言う。しかし本当は、夫が半年前から離婚を考えていたことを、彼女自身は知っていた。この事実は依頼の段階では語らせない。これがコーベン技法『全員が嘘つき』の種になる。」

【失踪した店長:仮名・中村誠一】

「五十代前半。店名は『アライコダイラーメン』——由来は仮に、店主自身の洗小平(あらいこだい)という名前の当て字でもいいし、タイ語で『何でもいい』という意味の言葉遊びとして設定してもいい。日本式とんこつをタイ人向けに辛くアレンジした独自スタイルで、在タイ日本人と一部のタイ人常連に愛されていた。性格は温和だが金銭感覚が甘く、バンコクで何らかの人間関係のトラブルを抱えていた可能性がある。」

第一幕:鬱の底と依頼の着弾(約3000文字・10ブロック)

「ブロック九、伏線。相撲・猫だましがなぜ得意なのかを短く語る。のちのクライマックスへの仕込み。」

健三が横綱になれなかったのは、身長のせいじゃない。——あの日、バンコクの土俵で「勝った」と思った瞬間、彼は回しごと剥ぎ取られ、観客のどよめきの中で丸裸のまま立ち尽くした。

若い頃の夢は相撲界に入り、横綱になることだった。だが背が足りず、その道は閉ざされた。それでも未練は消えず、バンコクに渡ってからは、せめて名だけでもとフリーペーパーの名前を「横綱新聞」にしようと考えた。

バンコクでも相撲大会で何度か優勝している。得意技は猫だまし。決勝の一番では「猫だましからの内無双」と呼ばれる一撃を決め、会場を沸かせた。

ところが、その栄光が、そのままトラウマに変わった。相撲決定戦で、猫だましからの内無双が決まり、健三は勝利を確信した。だが相手はまわしを掴んだまま踏ん張っていた。次の瞬間、健三は勢い余って回しごと脱げ、勝者のはずの土俵で、敗者のように晒し者になった。会場はどよめき、健三は自分でも信じられず、裸のまま数秒、動けなかった。

それ以来、健三はほとんど毎日、うつの底にいる。あの日の屈辱が、どうしても心から離れないのだった。

「ブロック一、視覚。バンコクの朝、容赦ない日差しとエアコンの壊れた編集部。ケンゾーのハゲ頭を伝う汗、重力に負けた身体の重さを一分間語る。」

バンコクの朝は、騒音とともにやってくる。

クリーンペーパー「横綱新聞」編集長の部屋には、窓がない。山田健三がバンコクにやってきて、もはや二十年。いつも騒音とともに目が覚める。

オフィスと言っても、自宅兼オフィスだ。ベッドの周りには、刷りたてのフリーペーパーや、配布しきれずに余ったフリーペーパーの山が積んである。エアコンの照明も薄暗く、普段でさえ気分が滅入りそうな部屋だった。

健三には裏の仕事がある。探偵だ。

「横綱新聞」には、バンコクの飲食店情報や不思議なスポット、異常現象、都市伝説などが載っている。ほかに人気の「お悩みコーナー」もあった。そこへ届く「悩める人」からの相談を、探偵として解決するのが健三の仕事だ。

依頼の大半は、日本に住む妻からの「夫の浮気調査」だった。

「ブロック二、聴覚。編集部のキーボード音、部下アームのタイ語の小言、屋台の喧騒。すべてが億劫に聞こえる鬱の耳を通して音を描く。」

横綱新聞のオフィスは、タウンハウスにあった。山田健三の自宅、その一階が編集部だ。

コピー機のある部屋に入ると、まず紙の匂いが鼻をつく。次に耳へ届くのは、スタッフが叩くキーボードの音。いつも決まって、部下のアームがタイ語で小言をこぼしている。さらに、近所の屋台の喧騒までが、隙間風みたいに流れ込んでくる。

「また今日も同じか」

健三はそう思い、ため息をついた。険しい顔の奥には、鬱の気配が居座ったままだった。

「ブロック三、内面。今のケンゾーが躁とうつのどちらに寄っているかを説明する。二十五年バンコクにいながら、なぜまだここにいるのかを一分で語る。」

健三が初めてバンコクを訪れたのは、バックパッカーとしてだった。見るものすべてが新しく、食べる料理も珍しくておいしい。毎日が楽しかった。ソングランではタイ人の仲間と一緒に騒ぎ回り、こんなに素晴らしいイベントは他にないと思っていた。

ところが一年が過ぎ、やがて自分で会社を始め、そのときに出会ったタイ人の女性と暮らし始めた。会社を始めると、フリーペーパーの広告が増えたり減ったりするたびに気持ちが落ち着かなくなっていった。

やがてバックパッカーの太郎がやってきて、一緒に仕事をすることになった。

やがて五年が過ぎ、十年が過ぎた。毎日は同じ繰り返しで、毎月、広告の数ばかりを気にしていた。そして憂鬱な気分を日本人の太郎にぶつけて発散していた。今で言えば、パワハラやモラハラにあたる。

「ブロック四、探偵業の説明。読者お悩み相談コーナーの仕組み、日常的な浮気調査の一例を簡潔に語る。」
プリンペーパーのお悩みコーナーに、主にメールや電話で問い合わせがある…そしてその問い合わせに対して、問題を解決するために、探偵として仕事を受けることがしばしばあった。今日も問い合わせは駐在員の旦那さんの浮気調査だった。始まりはメールか電話だった。ハロー、探偵については説明してあった。太郎は結構、足となり、健三の探偵作業をサポートした。
浮気調査の作業はわりと楽にできた。現場の写真と動画を撮って、日本の奥さんに送る、ということで一件落着となりました。報酬は1件5000バーツぐらい。日本円で15000円くらいだった。

「ブロック五、嗅覚。依頼のメールを開く瞬間、日本の柔軟剤の匂いと、窓の外のスパイスの匂いを対比させる。」

その日は珍しく、依頼がEメールではなく手紙で届いた。いつもの受信音ではなく、事務所の郵便受けが鳴る乾いた金属音。白い封筒は角が少し潰れ、長旅の埃をうっすらまとっている。切手の縁には指の脂が残り、封の糊は指先にわずかに引っかかった。

ペーパーナイフで封を切る。紙がほどける小さな音のあと、ふわりと立ちのぼったのは、ほのかな日本の柔軟剤の香りだった。甘く、清潔で、どこか制服の白さを思い出させる匂い。懐かしい香りだ。バンコクの空気に混じる排気ガスや湿ったコンクリートの匂いではない。

オフィスを一歩出れば、外は藍と香辛料の香りで満ちている。屋台の湯気、揚げ油の熱、むせるような唐辛子、青いハーブの青臭さ。汗ばんだ人いきれと、夕立の前のぬるい風。そうした匂いが、肌にべったりと貼りつく街だ。だが今、薄い紙片の内側だけは、遠い日本の柔らかい空気で守られているようだった。

健三の胸は少しざわめき、わずかな微笑みが顔に浮かんだ。目尻の皺がふっと緩み、口角が控えめに上がる。張り詰めていた眉間の力がほどけ、鼻先で匂いをもう一度確かめるように短く息を吸った。喉の奥に、言いようのない甘さが残る。彼はそのまま便箋を引き出し、紙の重みと手触りを確かめてから、手紙の内容を読み始めた。

「ブロック六、触覚。日本語の文面が、バンコクの熱気の中で異物として浮いて見える感触を語る。」

突然のお手紙で失礼いたします。バンコクで探偵業をされていると聞き、藁をも掴む思いで筆を執りました。
実は、現地に赴任している夫の様子がここ数ヶ月でおかしくなりました。日本への連絡が目に見えて減り、たまに通話がつながっても、背後から聞いたことのない女性の話し声や、賑やかな街の騒音が聞こえてくるのです。問い詰めても仕事が忙しいとあしらわれるばかりで、私の心は限界を迎えています。
物価の違いや調査の手間もあるかと存じますが、5000バーツほどの費用で、夫の現在の様子や浮気の証拠となる写真・動画を撮影していただけないでしょうか。
見知らぬ土地で頼れるのは健三様だけです。どうかよろしくお願いいたします。

「ブロック七、依頼内容。『アライコダイラーメンの店長が行方不明』という文言と、由美子の必死さが伝わる言葉を要約する。」

突然のお手紙で失礼いたします。日本の柔軟剤の香りで、少しでも私の必死の思いが伝わればと、慣れない手紙を書いています。
実は、バンコクで働く私の大切な人、「アライコダイラーメン」の店長が突然行方不明になってしまいました。ある日を境に連絡が一切途絶え、店にもおらず、どこを探しても足取りが掴めません。異国の地で一人、彼に何か恐ろしい事件やトラブルがあったのではないかと、毎日不安で押しつぶされそうです。
現地で頼れるのは、お悩みコーナーで問題を解決されている健三様だけです。どうか彼の行方を探し出す手がかりを見つけてください。よろしくお願いいたします。
由美子

「ブロック八、過去の接点。ケンゾーがこの店を取材で訪れたことがあるか、印象、味、店主の人柄を語る。」

失踪した店長:仮名・中村誠一

健三は3か月前、太郎と一緒に、失踪した店長・中村誠一が営む「アライコダイラーメン」へ取材に行ったことを思い出した。

ビット通りから一本入った小さな路地を進み、すぐの突き当たり。正面に店はあった。中に入ると、店内はラーメンをすする客でぎっしり埋まっている。

「はじめまして。何でも新聞の健三と申します。こちらはアシスタントの太郎です。よろしくお願いします」

「ああ、やっと起きたか。待ってたよ。ほら、隣の空いてる席に座って食べてみな」

店長の誠一は、やけに明るい声で答えた。健三の第一印象は「妙に明るい親父だ」だった。だが、話をしているうちに、その笑顔の裏に何か闇が潜んでいるようにも感じていた。

ラーメンの味は、魚のだしを効かせたスープにトムヤムクンの酸味と辛味が重なり、さらに日本の醤油ラーメンのコクが合わさったような、意外なほどまとまりのある一杯だった。

「はい。これ、うまいですね」と太郎が言う。

いつもは暗い顔で文句をつけがちな健三も、このラーメンには「そうだな」と短くうなずいただけだった。

店の写真を撮り、店長へのインタビューを終えると、二人は店を後にした。

その店長が、今は行方不明だという。そう思うと、健三の胸に、じわりと好奇心が湧いて——。

「ブロック十、感情で締める。うつ寄りの『めんどくさい』という心の声と、依頼メールの最後の一言に引っかかって断りきれない様子を描き、幕を閉じる。」

健三はなんとなくもう一度、手紙を読んでみた。夫の失踪、同性の愛人ができて、2人でどこかで生活を始めたのかもしれないが、…あるいは借金で、どうしようもなく夜逃げしたのかもしれない。なんとなく、いつもの浮気調査と同じだろう。面倒くさいなと心の中で思った。しかし以前、旅に行ったことがある荒井広大ラーメンの店長だということが気になった。やってみるか。それには、まずとんかつを食わないと。健三は久しぶりに、探偵の調査にやる気になっていた。

第二幕:躁の発動と全員の嘘(約3000文字・10ブロック)

「ブロック一、視覚と聴覚。躁のスイッチが入り、ネオン街を異常な行動力で歩き回る様子を描く。」

とんかつを食って数分後、健三の顔が豹変した。目が鋭く光り、不気味な微笑みが浮かぶ。

本来なら太郎が外回りで情報を集めるところだが、健三は自らレストランを出て、夜のバンコックのネオン街で調査を始めた。まずはラーメン屋周辺を洗う。常連客にも話を聞いた。

すると、事件当日、店長が「店を一緒にやっているタイ人の男」とプラカノン運河の周辺で言い争っているのを見た、という証言が出た。さらに別の従業員は、店長には愛人がいて、プカノン運河近くの道でよく待ち合わせをしていた、と言う。加えて、店長は日本にいる妻と別れ、タイの愛人と結婚する約束をしているらしい、という噂もあった。

健三はネオン街を歩き回り、さらに情報を集め続けた。とんかつを食べた影響か、数時間は躁の状態が続いていた。

「ブロック二、現場検証。店のシャッターに触れる手の感触、店内に残る匂いで、閉店からの時間経過を語る。」

健三はネオン街を1時間ほど歩いて聞き込みをした。そのあと再び、「荒い古代ラーメン」の周辺に戻る。

すでに店は閉店しており、シャッターは下りていた。建造がシャッターに触れてみると、まだ少し暖かい。閉店してから、あまり時間が経っていないようだった。さらに、ラーメンの香りが店の外にまで漂っている。

店長が失踪しても、タイ人のパートナーが店を回しているらしい。健三は、そのタイ人のパートナーを第一容疑者だと考えていた。

「ブロック三、聞き込み一。近所の屋台のおばさんの証言——『急に来なくなった』。」

健三はまだ営業している近所のクッティオの屋台のおばさんに問い合わせた。「ここのラーメン店の店主は、いつ頃から見かけなくなったのですか。」
「ちょっと前から急に来なくなったんです。」
「どんな人だったんですか。」
「陽気でよく喋る人でした。でも、女癖が悪いという噂も、あったんですよ。」
健三はやっぱり浮気が原因の失踪なのかな、と思った。

「ブロック四、聞き込み二。雑貨屋のおじさんの証言——『女と荷物を持って出て行くのを見た』。三人目の証言も加え、微妙に食い違わせる。」

健三は、同じ通り沿いにある雑貨屋のおじさんに、店長のことを聞いてみた。おじさんは「確か数日前に、女と荷物を持って出ていくのを見かけたよ」と言う。女は妙に派手な服を着た、きれいな美人だったらしい。

健三は、店長が女と一緒に逃げたのかもしれないと思った。するとそのとき、通りかかった男が「あそこのラーメン屋の店長、店が終わるといつもタニアのニューハーフの店に飲みに行ってたらしいよ」と口を挟んだ。

健三は、さっきの「美人」がそのニューハーフなのか、と考えた。

「ブロック五、ロジック処理。普段の浮気調査で使う手口(LINE、SNS、バイクタクシーの証言)を、今回の失踪捜査に応用する様子を語る。」

翌日、健三は朝から失踪事件の調査を始めた。まず、浮気調査で使う手口として、LINEのアカウントを洗った。店長のスマホは店に置かれたままだったが、ロック解除は「夕日のハッカー」トンに頼み、アカウントの中身を見ることができた。

すると、怪しいやり取りがいくつか見つかった。

一つは、店のパートナーのタイ人とのやり取りだ。新しいメニューについて議論している。店長は今まで通りトムヤムクンラーメンでやっていこうというのに対し、店のパートナーは日本の伝統的な豚骨ラーメンをやりたいと主張していた。

もう一つの怪しいやり取りは、謎のニックネーム「黒猫」だった。「黒猫」はどこかの店の従業員らしく、健三に店へ来るようしつこくメッセージを送っている。健三は、あの例のレディー・ボーイなのではないかと思った。

さらにFacebookでも調べてみると、ますます怪しい人物が見つかった。店の近くでバイタクの男に話を聞くと、店長は頻繁にタニアへ行っているという。驚いたことに、その男は、店長が都市伝説のスポットであるプラカノンの運河にもよく行っている、とも言っていた。

「ブロック六、誤解の構築。店長と若い女性が一緒にいた写真など、誰が見ても駆け落ちに見える証拠を一つ置く。」

健三はフェイスブックのアカウントから、一枚の写真を見つけた。そこには健三と若い女性が並んで写っている。誰が見ても親密そうで、駆け落ちの証拠と言われれば、そう見えてしまう一枚だった。

さらに調べた結果、撮影場所はパターヤ沖のラン島だと判明する。ラン島はパタヤビーチから少し離れた小さな島だ。

健三は、バンコクからそのあたりへ足を延ばし、調査に行こうかと考えた。だが、店長が本当に若い女性と駆け落ちして観光地のラン島へ行ったのかどうか、まだ確信が持てないままだった。

「ブロック七、第六感。証言が揃うほど、逆に『このパターンはどこかおかしい』という違和感がうなじを刺す様子を語る。」

健三はタニヤで、店長が頻繁に遊びに来たという店を探し始めた。聞き込みの結果、どうやら「ブルーバード」という店らしいと分かる。

ブルーバードを訪ね、従業員に話を聞くと、「黒猫」と呼ばれていたミャオは数日前から突然、姿を見せなくなったという。さらに店長はギャンブルにのめり込み、多額の借金を抱えているらしかった。

駆け落ちだと決めつけるには、証拠が揃いすぎている。だからこそ健三は、うなじを刺すような違和感を覚えた。ラーメン店のタイ人のパートナーと口げんかしていたこと、そして都市伝説のスポットであるプラカノン運河へ頻繁に通っていたこと——。やはり、何かがおかしい。

「ブロック八、二重の時間軸。誠一が五年前にバンコクへ来た本当の理由を誰も知らないという事実を浮かせる。過去の謎として、現在の失踪とはまだ結びつけない。」

健三は店長・誠一が5年前にバンコクへ来た理由を聞き込み、調査した。だが、その理由を知る者は誰もいなかった。

なぜ「荒い古代ラーメン」を始めたのか。なぜパートナーに「あの男を選んだのか」。

さらに健三は、日本にいた頃の誠一についても探ろうとしたが、過去の経歴はまったく掴めない。誠一は明るく、いつも笑顔だ。それでも健三は、その笑顔の奥に、何か暗いものが潜んでいる気がしていた。

「ブロック九、緊迫。チンピラに絡まれる小さなピンチで、相撲の重心と猫だましを一度だけ軽く使う場面。ちびデブの体型を武器として描く。」

健三はタニヤの店からオフィスへ戻る途中、タイ人のチンピラと肩が触れてしまった。相手はタイ語で訳のわからない言葉をまくし立て、因縁をつけてくる。

健三より背が高く、身長は180cmほど。体つきも筋肉質で、いかにも強そうだ。健三は一瞬「逃げようか?」と思ったが、覚悟を決めて応戦した。

得意の猫だましで相手の意表を突き、得意の内無双で勢いのまま地面に叩きつける。チンピラは驚いて、そのまま逃げていった。

健三は思わず道の真ん中で立ち尽くし、相撲の四股を踏んで周囲の人々を驚かせた。しかし、過去のトラウマがよぎり、我に返ると慌ててその場を離れた。

「ブロック十、感情で締める。由美子からのLINE『何か分かりましたか』に返信できない、汗と共に募る違和感で幕を閉じる。」

健三はオフィスに着くと、しばらく失踪の理由を考えていた。しかし、どう考えても何かがおかしい。

そのとき、健三のスマホに由美子からLINEが届く。「何か分かりましたか?」

健三はまだ結論を出せなかった。さらに調査が必要だ——この失踪事件の裏には、きっと何かがある。そう思い、返信はしばらく保留にすることにした。

第三幕:真相の収束とスコールの余韻(約3000文字・10ブロック)

「ブロック一、手がかり。誠一が日本で抱えていた問題(借金か人間関係か)が、バンコクまで追いかけてきた可能性が浮かぶ。」

健三は、店長の誠一が日本で抱えていた問題に失踪事件の原因があるのではないかと考えた。そこで、日本にいる探偵仲間の村田に、誠一の日本での情報を集めるよう依頼した。

村田の調査によると、誠一は怪奇現象雑誌『異常現象世界の不思議』に定期的に記事を書いていた。さらに、日本でもギャンブルにのめり込み、妻に黙って多額の借金を作っていたことが判明する。

一方で、妻も最近、誠一に多額の保険をかけていた。健三は捜査を進めるうちに、妻にも疑惑を抱き始めた。

「ブロック二、感覚の飽和前編。決定的な手がかりを見つける瞬間を、光・音・匂いの暴走として描く。」

健三は、誠一が頻繁に通っていた「幽霊で有名なプラカノン運河」に何かあると感じた。健三は警察に、最近プラカノン運河周辺で事件がなかったかを尋ねる。すると、数日前に運河で身元不明の死体が上がったことを知った。

健三は真夜中、プラカノン運河の運河沿いの道を歩いてみた。道には十メートルおきくらいに蛍光灯が並び、その光が暗い水面を妖しげに照らしている。

——やはり不気味な場所だ。ここに幽霊が出るというのも、本当かもしれない。

健三は、あの有名なメナークの話を思い出した。

すると、不思議な音が聞こえた。わざと何かが飛び跳ねるような音だ。魚かもしれない。あるいは、メナークが自分の存在を示しているのかもしれない。

そしてそのとき、死体が腐っていくような悪臭が漂ってきた。健三は、その死体は誠一に違いないと思った。これで、この事件の依頼に対する答えは確信できた。

でも今日は何だろうか、妖怪メナークに運河の中に引きずり込まれたのか。それとも
恋愛関係のもつれか。それとも保険金目当ての殺人依頼か。

「ブロック三、猫だましのクライマックス。誠一を追い詰めた人物との対峙、両手を叩く乾いた破裂音、ちびデブの体重を活かした一撃を熱く語る。」

健三はブラカノン運河からオフィスに戻ろうとしたとき、再び、あの長身で恐ろしいタイ人が現れた。

運河に沿った道はまっすぐ続いているが、先は暗がりに溶けて見通せない。今回は薄暗い場所での戦いになった。

タイ人の男は一直線に健三めがけて走ってきた。健三も男の懐へ飛び込み、接触した瞬間、その腹に頭突きを叩き込む。

健三の秘密の必殺技――「原爆頭突き」だった。健三は、あの有名なプロレスラーの親戚でもある。子どもの頃から、喧嘩に勝つには頭突きだと教え込まれていたのだ。

男は腹を抱えてうずくまった。だが、再び立ち上がろうとした、そのとき。健三はとどめの一発を頭に食らわせた。

男は気を失って倒れた。

健三は、この男の正体を調べようと思い、警察に連絡した。男はその場で逮捕される。警察によると、男は金で何でもやる暴力団に属していたという。

「ブロック四、真相の核心。誠一が消えた理由——駆け落ちではなく、もっと個人的で情けなく、しかし切実な『業』であることを語る。」

日本の探偵仲間の村田から、驚くべき事実が伝えられた。

誠一は若い頃から女装趣味があり、新宿二丁目の小さなバーで女装してアルバイトをしていたということが分かった。

そして、誠一がバンコクにやってきた本当の理由は、バンコクで性転換手術を受け、本当の女性になることだった。

健三は、あの妙に明るく元気で、しかし心のどこかに闇を潜めた笑顔の秘密が分かったような気がした。

だが、それでは誠一は誰に殺されたのだろうか。さらに謎が深まってしまった。

「ブロック五、由美子の嘘の正体。夫婦仲良好という嘘の裏にあった離婚の話を明かし、『全員が嘘つき』のテーマを回収する。」

健三はさらに調査を進め、依頼主の由美子が、誠一の失踪する数日前にバンコクへ来ていたことを突き止めた。由美子は嘘をついているのだ。

そして誠一は、ラーメン店のパートナーであるタイ人男性と恋愛関係にあり、同性婚をする約束まで交わしていた。さらに、黒猫のミャオとも「結婚の約束」をしていたという。

誠一の死因が恋愛関係のもつれなのか、それとも保険金目当ての殺人なのか。あるいは、ブラックのブラカノンの悪霊に水の中へ引きずり込まれたのか——健三には、まだ判断がつかなかった。

健三はLINEで、由美子に誠一の女装趣味について尋ねてみた。由美子は「以前から知っている」と答え、誠一がタイで同性婚を望んでいることも把握していた。

さらに、由美子が数日前にタイへ来た理由を問いただすと、「自分の目で誠一の様子を見たかったからだ」と言った。

「ブロック六、時間軸の合流。五年前の渡タイの理由と、現在の失踪が同じ根から生えていたと判明する瞬間を語る。」

健三は考えた。5年前、聖地がタイにやってきた理由は、性転換。そして今回の失踪事件の原因は、同性婚。だんだん事件の真相が明らかになってきた。

叩きになっているのは、なぜブラカノンなのだろうか。おそらく健三は、村田の運河を秘密の待ち合わせ場所にしていたのだ。タニアの行きつけのバーの黒猫ミャオとも会っていた。

そして妻・由美子の話によると、健三と初めて出会ったのが、ブラカノン運河の近くの小道だったという。

謎は解けたと思った。ただ、犯人が誰なのかは、まだ分からない。

「ブロック七、ケンゾーの判断。由美子にどこまで真実を伝えるか、100%か70%か、内面モノローグで迷いを語る。」

健三は迷った。由美子に、どこまで真実を伝えるべきか。

誠一がプラカノン運河で水死体として発見されたこと、そして容疑者が複数いることまで話すべきかどうか。その中に、由美子も含まれている――その事実も。

あるいは調査報告として、「プラカノン運河で遺体が見つかった」というところまでに留めてもいいのかもしれない。だが探偵としてのプライドが、原因まで踏み込みたいと訴える。警察だって捜査するのだから、余計なことはやめておくべきか。

それでも、探偵料金と必要経費に、とんかつ代まで上乗せして請求してしまえばいいのではないか――そんな考えまで頭をよぎる。

健三の鬱はさらに深まり、眠ることができなかった。

「ブロック八、報告シーン。電話かLINEで由美子に結果を伝える、感情のクライマックス。」

健三はLINEのビデオ通話で由美子に結果を伝えることにした。夫の誠一がプラカノン運河で水死体として発見されたこと、原因はまだ不明で殺人の疑いもあること――その事実を告げるためだ。

由美子を問いただすと、彼女は数日前にバンコクへ来ていたことを認め、何が起きたのかを語り始めた。

由美子がバンコクに着いた日、プラカノンの秘密の待ち合わせ場所で誠一と会って話をする予定だった。ところが、そこへ見たこともないタイ人の女性が現れ、「自分は黒猫のメオだ」と名乗った。しばらくしてラーメン店のパートナーの男性も現れ、さらに誠一も合流した。

話題は同性婚、離婚の慰謝料へと移り、次第に険悪になっていく。やがて四人は運河のほとりで言い争いになった。するとパートナーの男性が「誠一を運河の方向に押すと――」と言いかけた瞬間、誠一は運河へ落ちてしまった。

騒ぎを聞きつけた人々が集まり、警察を呼ぶと言い出す。四人は慌ててその場から逃げた。ただ、そのとき不可解な出来事が起きた。運河で溺れる誠一のそばに人影が現れ、彼を水の底へ引きずり込んだように見えたという。

由美子の話は以上だった。

「これで一件落着ですね。由美子さん、あとは警察に任せましょう」

健三はそう言って、穏やかに気持ちを落ち着けていった。

「わかりました。探偵料金、請求してください」

由美子はそう答えた。

「ブロック九、感覚の減衰。バンコクのスコールが降り、躁で熱った身体を冷やしていく。音が遠ざかり、匂いが薄れる。」

健三は一件落着だと思った瞬間、外ではバンコクのスコールが降り始めた。健三はその余韻に浸りながら、ひとり静かに解決を祝う。

しかし、スコールは突然止んだ。すると過去のトラウマが、また胸の奥からせり上がってくる。健三の表情はみるみる不機嫌になり、部屋の隅の角でうずくまってしまった。プラカノン運河の妖怪――メナークに取り憑かれるのではないか、そんな不安まで湧き上がってくる。

そのまま健三は眠りに落ち、朝を迎えた。

「社長、起きてください。締切、今日なんですけど。しっかりしてください」

アシスタントの太郎に起こされ、健三は嫌々ながら目を覚ました。

「ブロック十、変数の書き換え。雨が上がり、日常が戻る。編集部のデスクでまたくだらない浮気調査のハガキを手にし、かすかに笑う——鬱の気配がまた忍び寄る予感を残して締める。」

目を覚ました健三は編集部のデスクで、またくだらない浮気調査の依頼を手にし、かすかに笑った。

「太郎。探偵寮の料金と手数料が入ったから、今日のランチはとんかつにするか」

そう言って、健三は立ち上がる。今日もまた、健三の同じような毎日が始まった。

――いや、ランチじゃない。朝ごはんに、とんかつを食おう。

健三は太郎と並んで、近所のとんかつが食べられる店へ向かった。朝日が健三の頭を眩しく照らし、太郎は目を細めて視線をそらしながら歩く。

今日もどこかで誰かが秘密をつくり、その秘密を誰かが嗅ぎつけようとする。そんな街が、バンコクだった。