📖 アクシオム帝国物語 Episode 24 – 『日常の変化』

Episode 24 – 『日常の変化』

(約2,900字 / 読了約4分半)

《序景 – 帰還から一ヶ月後》

帝国から戻ってから、ちょうど一ヶ月が経っていた。

ひなたは、現代での新しい生活を、着実に構築していた。

朝は、高卒認定試験の勉強。昼間は、新しいバイト先でサーバーの仕事。夜は、創作活動。そして、週に一度は、帝国へ。

生活は、相変わらず忙しかった。だが、その忙しさは、以前のような「逃げ込むような」ものではなく、「目的に向かう」 ものへと変わっていた。

その夜、ひなたは、いつものように、イタリアンレストラン「ボスコ」に出勤した。

《バイト先 – 夜8時》

「おす。ひなた、今日も来たな」

店長の田中は、50代の男性。かつてこのレストランの実況者だったが、今は経営難で、給与の未払いが続いているという噂がまことしやかに流れていた。

性格は、最悪だった。

スタッフには、常に罵倒。客には、愛想笑い。そして、利益のためなら、何でもする——そういう男だ。

「はい、こんばんは」

ひなたは、いつもより明るく返答した。

その返答を聞いて、田中は、眉をひそめた。

「何だ、その元気な返事。いつもより、気持ち悪りぃ」

「気持ち悪くありません。ただ、今日も頑張ります、という気持ちを込めました」

ひなたの言葉は、丁寧だったが、どこか芯があった。

以前のひなたなら、この時点で、田中の不機嫌に怯えて、縮こまっていただろう。

だが、今のひなたは、違う。

《試練 – 理不尽な指示》

営業時間に入ると、すぐに客が増え始めた。

金曜日の夜だから、当然だ。

ひなたは、他のスタッフ・ユキ(同じく17歳)と一緒に、テーブルを回った。

「ひなた、あの客、メニューを見てない。急かしてこい」

田中が、ひなたに指示をした。

「かしこまりました」

ひなたが、そのテーブルへ向かった。

そこには、ビジネスマン風の中年の男性が、スマートフォンを見ながら、ゆっくりとメニューを眺めていた。

「お待たせしております。ご注文はお決まりになられましたか?」

ひなたが、丁寧に尋ねた。

だが、その男は、ひなたを見もしなかった。

「もうちょっと待つ」

「かしこまりました。ゆっくりお選びください」

ひなたは、その返答に、何の不満も持たなかった。

だが、店長の田中は、激怒していた。

ひなたがテーブルに戻ると、すぐに呼ばれた。

「おい、ひなた。何やってんだ。さっさと注文取ってこいよ。効率が悪い」

「店長。客が、まだメニューを選ばれている途中でした」

「うるさい。俺の指示を聞け。客を急かせ」

「いえ。客の決定を尊重すべきです。無理やり急かすのは、サービス業として、不適切ではないでしょうか」

ひなたの言葉が、店内に静寂をもたらした。

他のスタッフ・ユキが、目を丸くしている。

「何だと? てめえ、俺に逆らうのか?」

田中の顔が、赤くなった。

「いいえ。逆らっているのではなく、正当な意見を述べているだけです」

ひなたの瞳は、虹色に輝いていた。

「店長。私は、このお店で働くのが嫌です。ですが、それ以上に、客に失礼な態度を取ることは、できません」

「てめえ、クビだ。今すぐ、ここから出ていけ」

田中が、ひなたを指差した。

《転機 – 客からの声》

その時。

先ほどのメニューを見ていたビジネスマンが、席から立ち上がった。

「ちょっと待ってください」

男が、店長に声をかけた。

「その店員さんは、全く悪くない。むしろ、素晴らしいサービスをしていた。お客さんのペースを尊重して、丁寧に対応する。これが、本当のサービス業だ」

男が、ひなたの方を向いた。

「君は、素晴らしい。その態度、その言葉遣い、全部が素晴らしい。君なら、どこでも働ける」

「ありがとうございます」

ひなたが、男に頭を下げた。

その男は、スーツのポケットから、一枚のカードを出した。

「これ、俺の会社の採用担当の連絡先。もし、大学に行ったら、うちに来ないか? 君みたいな人材、本当に必要だ」

「ありがとうございます。大切に取っておきます」

《店内での反応》

その光景を見た他のスタッフたちが、動き始めた。

ユキが、ひなたに駆け寄った。

「ひなた、凄い。店長に逆らったことなんて、誰もできなかった」

別のスタッフ・太郎も、声をかけた。

「おい、ひなた。実は、俺たちも、店長に不満があったんだ。給与の未払いとか、理不尽な指示とか。だけど、誰も声を上げられなかった。お前が声を上げたから、俺たちも、言いたいことが言える気がした」

その時、他の客たちも、拍手を始めた。

それは、ひなたに対する拍手だった。

《店長の反応》

田中は、完全に面目を失った。

だが、その時、ひなたが静かに、エプロンを外した。

「店長。私は、今日を持ちまして、このお店を辞めさせていただきます」

「あ? こっちはお前をクビにするって言ってんだ」

「はい。ですが、私は、自発的に辞めることにします。理由は、このお店の経営方針に、納得できないからです」

ひなたが、エプロンをテーブルに置いた。

「そして、店長。給与の未払いについて、労働基準監督署に報告させていただきます。これは、違法です。従業員の権利を守ることは、社会人としての最低限の責務だと、帝国で学びました」

「何だと? 帝国? お前、何言ってんだ」

「言葉の意味は、重要ではありません。重要なのは、私たちが、自分たちの権利を守るために、声を上げることです」

ひなたが、ユキと太郎に目をやった。

「皆さんも、自分たちの権利を守ってください。不当な待遇には、堂々と異議を唱えるべきです」

《帰路 – 新しい光》

レストランを出たひなたとユキは、駅前のカフェに入った。

「ひなた、すごかった。私、今まで、店長に何も言えなかった。怖くて」

ユキが、ひなたを見つめた。

「でも、お前が言ってるのを見て、『あ、こっちが正当なんだ』って気づいた」

「ユキさんも、頑張ってください。自分たちの声は、大切です。それを失ったら、人間は、何も失わせられなくなってしまいます」

ひなたが、ユキの手を握った。

「私も、帝国から戻ってきて、改めてわかりました。現代という社会は、まだ、多くの不正と不平等に満ちています。だけど、だからこそ、私たちは、声を上げる必要があるんです」

ユキが、ひなたに抱きついた。

「ありがとう。本当にありがとう」

《アリアとの対話》

その夜、ひなたは、自分の部屋でアリアと対話した。

「ひなた、今日の行動、良かったね」

「ありがとう、アリア。でも、正直、怖かったです。店長に逆らったら、どうしようって」

「だけど、やった。それが、重要。人間は、時々、恐怖を乗り越える必要があるんだ。その瞬間に、成長する」

アリアが、ひなたの額に、光を投射した。

「君は、もう、帝国の光を忘れてない。胸の紋章も、まだ輝いてる。つまり、君は、架け橋なんだ。現代と帝国の間で、光を灯す者として、生きてる」

「はい。アリア。私、頑張ります。高卒認定試験も、受かります。大学にも、行きます。そして、デジタルアーティストになります」

「その決意が、君を光にする。だから、絶対に諦めるな」

《母への報告》

深夜、母が帰ってきた。

母も、最近、帝国の技術を日本の社会問題に応用するための、起業準備をしていた。

「ひなた。どう? バイトは?」

「実は、辞めました」

母の顔が、曇った。

だが、ひなたは、その夜に起きたことを、全て説明した。

不正な給与未払い。理不尽な指示。そして、ひなた自身が、堂々と立ち向かったこと。

母は、ひなたを抱きしめた。

「よくやった。本当にね」

「お母さんも、いっぱい困ったことあると思います。でも、これからは、一緒に立ち向かいましょう」

母が、娘を見つめた。

「ひなた。お母さんも、決めた。起業するって。そして、帝国の光を、日本の社会に広げるって」

「本当ですか?」

「ああ。お前が立ち向かう姿を見てたら、お母さんも、立ち向かわなきゃいけないって思った」

母が、娘の手を握った。

「私たちは、光だ。二つの世界を繋ぐ、光なんだ」


💫次回予告💫

バイトを辞めたひなた。

だが、その決定は、新しい扉を開いた。

採用担当の男から、受け取ったカード。

大学受験。

デジタルアーティストとしての活動。

そして——

母との起業。

全てが、動き始める。

「ひなた。これからが、本当の冒険だ」

アリアが、ひなたの肩に寄り添う。

「わかってます。でも、絶対に立ち向かいます」

ひなたの瞳には、虹色の決意が宿っていた。

明日 Episode 25:「創作活動の始まり」

朝7時公開