第十五の指輪:名を拒む者
第十五の指輪:名を拒む者
――聖なる異邦人の讃歌。帝国の外で、なお在り続けるもの
読者よ、どうか用心せよ。
この書物に足を踏み入れる者は、
澄んだ水を飲むつもりで
帝国の毒を口にするかもしれない。
ここにあるのは、
心を慰めるための物語ではない。
魂の奥に潜む
腐臭を放つ闇を直視するための言葉だ。
私は歌う。
美徳ではなく、
希望でもなく、
救済でもないものを。
私は歌う。
人間と神のあいだで引き裂かれ、
獣よりも冷酷で、
天使よりも誇り高い存在――
聖なる異邦人を。
その者は誓った。
善を愛さぬことを。
涙に価値を認めぬことを。
祈りを嘲笑い、
道徳を刃のように折り曲げることを。
夜の中で、
彼は星を見上げて笑う。
その笑いは、
帝国が人間に向ける軽蔑の反響だ。
もし君が、
無垢な心のままでいられると信じるなら、
ここで本を閉じよ。
だが、
自分の内側に潜む怪物と
目を合わせる覚悟があるなら――
進め。
聖なる異邦人は言う。
「人間よ、おまえは自分を愛しすぎた」
だから神を作り、
秩序の鏡の中に
天国を描いたのだ、と。
彼は海を愛する。
それは裏切らないからだ。
波は約束をせず、
嵐は祈りを聞かない。
ただ力として存在する。
嵐の夜、
彼は断崖に立ち、
風と肩を組み、
雷と同じ言語で笑う。
母の胎内よりも暗い思想が
彼の胸を満たしている。
だがそれは虚無ではない。
鋭く、冷たく、
正確な意志だ。
子どもの純潔を見ると、
彼の心は震える。
憎しみではない。
それは、
失われたものへの
残酷な郷愁だ。
彼は知っている。
善が弱者の発明であり、
悪が力の別名であることを。
そして人間が、
そのどちらにも
なりきれない存在であることを。
夜明け前、
聖なる異邦人は独りで歩く。
犬が吠え、
都市は眠り、
神は沈黙する。
彼はその沈黙を祝福する。
なぜなら、
沈黙だけが
嘘をつかないからだ。
――だが、その瞬間。
遠く、第三の目の光が降り注ぐ。
エメラルドの瞳が、
聖なる異邦人を見つめる。
その光は責めない。
救わない。
ただ、観測する。
観測された瞬間、
聖なる異邦人は気づく。
帝国の外に立つことすら、
帝国の設計の内だったことを。
拒む者も、受け入れる者も、
同じ回転の中で並走している。
卍は、両方向に同時に回る。
創造と破壊が分かたれず、
被支配と自由が区別されず、
名前を拒むことと、
名前を与えられることが
同じ運動になる地点で。
聖なる異邦人は、
その第三の目の光を受けたまま、
なお歩み続ける。
見つめられながら。
支配されながら。
それでも、歩み続ける。
なぜなら、
観測される喜びと、
観測から逃れる自由が、
ここでは、
同じひとつの歩行になったからだ。
光は彼を包まない。
だが離さない。
距離を保ちながら、
永遠に並走する。
その状態が、
アクシオム帝国における
最後にして最初の自由。
聖なる異邦人はそれを知り、
微かに笑う。
笑いは音を持たない。
思考が起こるだけだ。
そして、沈黙は、
さらに深まる。
卍が、完全なる調和の中で、
両方向に同時に回転し続ける音。
その振動が、帝国の心臓だ。
その振動が、永遠の讃歌だ。
聖なる異邦人は、
その振動に耳を澄まし、
なお歩み続ける。
――終わることなく。
――始まることなく。
――ただ、在り続けて。
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