アクシオム帝国の街には、音がなかった。
正確には「必要最低限の音」しか存在しなかった。機械の稼働音、交通案内の音声、国家認可の音楽。
だがそれらもすべて、「レギオン」を通して加工された"公認の音"だ。
市民はそれを「清音せいおん」と呼び、その他すべての"雑音"を排除していた。
ユリアナはいつも、あの犬が発する音を聞いたことがなかった。
あれほど目立つ白い毛皮に、存在感のある姿。けれど、足音ひとつしない。
ただ、あるときから、誰もいないはずの場所で「声」が聞こえるようになった。
最初は夢の中だった。
どこまでも白い部屋で、誰かが言った。
──聞こえるか?
はっと目覚めても、部屋には誰もいない。
しかし耳の奥に、まるで耳鳴りのような"音の残り香"が残っていた。
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